対談

伊礼智
(伊礼智設計室)

いやしのいえzen
モデルハウス設計

壺谷泰久

壺谷建設株式会社 代表取締役

壺谷:本日は香川までお越し頂きありがとうございます。おかげさまで完成しました。ありがとうございました。

伊礼:いえいえ、こちらこそ。長かったですね。

壺谷:2019年の2月に先生の事務所にお伺いし、その年の8月に初めてこの地に来ていただきました。

先生は到着するやいなや、このあたりを歩き回られて、最初は「何を見ているのかな?」と思ったんですが、その後追いかけながらよく見ますと、表の11号線やこちらの裏通りなど、いろいろなところから土地を見ていて。こうやって敷地の読み込みをしているんだなと感心しました。

そして翌年の6月に、第1回目のプランとして平屋と2階建ての2つを持ってきてくださったんですが、この地に到着するなり先生が「やっぱり2階建てでいくか」という話になって。

伊礼:そうでしたね。平屋を希望されていたので、当初は平屋で考えたんですが。

壺谷:「平屋もつくったけどここは2階やな」っていう話になって。こちらは最初から全て先生にお任せする気でいましたので、そのまま2階建てプランでスタートになりました。

伊礼:この辺りの集落がとても綺麗なので、風景を取り入れてそこに溶け込むような設計をしないと、と思っていました。瓦の屋根にしたのもそれが理由です。「瓦にしましょう」という話をしたら、社長から「銀古美」という瓦をご提案いただき、それを使わせてもらったんですが、本当にいい瓦ですね。

壺谷:そうですね。

伊礼:「母家」と「カーポート」と「離れ」と3つで、壺谷さんのお宅だけでも集落みたいになるっていう、そういう風景ができれば良いなと思ったんです。
あと、西日も強いので西日避けも兼ねて街との間でワンクッション置く意味でカーポートがあって、その奥に沖縄のひんぷんみたいなのがあって、徐々に街と家が繋がっていくという、そんな構成になれば良いなと思って、模型もつくったりしてました。

伊礼:そこに荻野さんに入っていただいて、本当にもう期待通りの面白い庭を用意していただいて、こちらこそ楽しい仕事をさせていただきました。石積みとか大変だったと思いますけどすごい頑張ってやっていただいてありがたいと思っています。

壺谷:この石積みはうちの庭師さんが長い間ほとんど一人でやってたんですけど、手間暇かけてやってくださいました。荻野さんがいらっしゃった時も「良い仕事をしてくれてありがとう」って褒めていただきました。

伊礼:中も特別変わった設計してるつもりはないんですよ。普通に住みやすいようにってやってて、いつも通りの仕上げとか、もう20年以上独立してずっとこのやり方なんですね。 ただ時々すごく気に入った材料が出てくると使わせていただいているくらいで。
天井材は三重県の野地木材さんのですけど、僕はフィンランドのアルヴァ・アアルト大好きなんですけれども、アルヴァ・アアルトみたいな天井材をつくっていただいてずっと使わせていただいているんです。
でも、北欧のアアルトのようでもあるけれどもすごく日本的な仕上がり。漆喰の壁とぴったりあって良かったかなと思います。若い人でもご年配の方でも違和感なく受け入れてもらえるようなそういう空間になったかなと思いますね。

壺谷:そうですね。本当にそう思います。

伊礼:壺谷さんは、性能についてもこだわっていて、ここにはそれも活かせていると思っています。床下エアコンを利用して冷暖房やってるというのも、今日体感した印象ではうまく機能していて本当に良かったと思います。どうですか?冷房の効き具合は?

壺谷:今年の夏も酷暑で35℃を超えるような日が続いてますが、朝1時間も経たないうちに家全体が冷えてすごく涼しくなります。隣にある社屋と比べると全然違いますね。
伊礼:これだけの空間なんですけど断熱性能がG2レベルだから早いですね、立ち上がりも。最初、連続運転しないとあまりうまくいかないと話してたんですけど、冷房に関しては入り切りしても良いのかもしれないですね。夜は切ってても。暖房は緩くずーっとつけていた方がいいかと思いますけれど。改めてG2レベルの断熱性能ってすごいなと思いました。
今回は残念ながら太陽光パネルはセットしていませんが、太陽光発電も検討してもよいと思います。製造エネルギーがどうとか、廃棄の問題がどうとか、いろんな人がいろんなこと言いますが、そのあたりはもうクリアできていると思っています。廃棄の際にも分別して再利用したりとか。

ただ、瓦屋根だと少しやりにくいところはありますが、上のほうにスッと並べたりとか、すっきり納める方法はあると思います。

壺谷:屋根でいうと、この軒の出の長さが自分はすごく気に入ってるところなんです。外からは風情を感じ落ち着きますし、内からは軒先が低く下がりそれにつれ目線が下がり庭の広がりを感じられるのがいいですね。

伊礼:瓦なので1200mm出すっていうのはすごく大変かなと思ったんですけど、ちょっと垂木の樹種とサイズを大きくして上手くいったかなと思いますね。本当に良かったです。ありがとうございます。

壺谷:この「銀古美」という瓦はうちも初めてなんですけど艶消しの飽きの来ないような瓦でよかったです。

伊礼:本当に初期の頃の瓦と近いんだということでね。もう一目惚れですよね。ひと目見て「ああ、いいなあ」と思って使わせてもらって。
壺谷:こちらの窯元の方もすごく喜んでいらっしゃいました。
伊礼:そのうち見にきてくれると思いますけど。今日声かけておきましたから。

壺谷:あと「白洲そとん壁」もうちは初めてなんですけども、すごく相性がいいですね。デザイン性だけでなく、断熱性能や防火性能にも優れている良い壁材ですね。

伊礼:そとん壁、実は開発に関わっているんです。発売して20年になるんですけども。実は第一号で使ったのも僕なんですよ。最初はやっぱり問題がいくつか出て、それを改良してリリースし直してるんですけど、今はとても良い材料だと思います。ずっと使い続けてるんですが耐久性も高いと思いますね。

伊礼:内壁の白洲漆喰も初めてですか?

壺谷:はい、初めてです。
伊礼:最初の時どうしても左官屋さん戸惑うみたいですけど、今日見た限りではいい出来だと思いますね。調湿機能も高いですしすごくこの空間に合っていると思います。
壺谷:そうですね、すごくしっとりとしてる和でもないし洋でもないというような感じを受けますね。
伊礼:本当そうなんです。壺谷さんの最初の要望の中に、数寄屋とかお茶室とか得意でやられていてどうしても和のイメージが強すぎるから。そこを抜け出たいという狙いがありました。
でも僕が見た時に、和(の建築)をちゃんとやれるっていうのはすごいなぁと思って、それはずっと持っていた方がいいと思ったので、何か和でも洋でもないみたいなものっていうのはある意味狙ったところがあって、それがちゃんとできたかな。ちょうどよかったと思います。

壺谷:この間ある方がおいでになられてこの建物を見たときに社屋と比べ、「こちらの家の方が『癒しの家らしく見える」と言われました(笑)

伊礼:なんといいますか、重厚感のある素材だけでなく、軽みのある工業製品や無垢の木、左官などを混ぜてるのがちょうどよかったかなと思います。

壺谷:この床のフローリングも良いですよね。これは高知県四万十の栂(つが)なんです。最近では珍しい木材ですね。

2階の床は島根県の石見地方の松です。
伊礼:四万十の栂、綺麗ですね。
壺谷:落ち着いてて飽きのこないような感じでいいですね。
伊礼:階段の手すりのラタンも。巻き大変だったのでは?
壺谷:はい、一体どうなることだろうと思ってすごく心配したんですけど、最終的に、この現場を手がけた大工さんが平気でくるくる回して、いとも簡単に巻き上げてくれました。
伊礼:職人さんも腕がいいしすごい頑張ってくれてよくまとまったと思います。
伊礼:今、自分の設計のテーマに、「性能と意匠の両立」と「外部と内部の融合」みたいなことがあるんですが、それがここではまたさらに一歩進んでできたかなと思っていて、今日実際に見にきて手応えを感じているところです。

壺谷:ありがとうございます。性能とデザインとか、昔の街並みとかを大切にしたりとか、これまでうちが手掛けてきた家にはなかったようなものもたくさん取り入れていただいて、とても感謝しています。

伊礼:いえいえそんな。こちらこそ、またさらに一歩見えてきた気がしてとても感謝しています。どうもありがとうございました。
壺谷:こちらこそありがとうございました。
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